瀬戸正人「記憶の地図」展

東京都写真美術館で開催中の瀬戸正人「記憶の地図」展へ行ってきた。

今回、ビンランスタンドの女性たちを撮影した Binran [2004-2007]』の展示をぜひ見てみたかったのだった。

※ビンラン(檳榔)とはヤシ科の植物で種子に覚醒作用があり、アジア各地の庶民の間で親しまれている嚙みタバコのようなもの。噛むと口の中が真っ赤になる。軽い高揚感と酩酊感を得られる。

というわけで印象に残った展示について以下、感想を書いてみたい。

入口付近、そしてギャラリーに入ってまず目に入ってくるのは『Silent Mode 2020 [2019-2020]』のたくさんの女性たちの写真。

露光時間を長めにとって被写体の顔に無意識の相が沸き上がってくるのを待つスタイルで撮られたというその写真は、口は半開きでときに涙を流したようなあとがある女性もいてとても興味深かった。

しかし、カメラを向け続けていて「無」になる状態というのはどれだけの時間を費やしたのだろう・・・。本当に無意識で自己の内面に降りてきている状態なのだというのであればこんなに美しい表情でいられるのだろうかとちょっと思ってしまった。

無意識の状態をふいに撮られた自分の顔は大体ビックリするほど不細工なので、美しい人が「無意識」を意識して「無」の表情になっている顔の写真、または本当の「無」になる一歩手前の写真なのではないかと感じた。

とにかく、美しい写真だった。

『Living Room, Tokyo [1989-1994]』は第21回木村伊兵衛写真賞を受賞した作品だ。

昔、古本屋で購入した1995年に東京都写真美術館で開催された「写真都市TOKYO」展の図録にこの作品が載っていてすごく面白くて引きこまれた。

写真集を見るだけでも面白いのに、初めて見た巨大な写真の展示はまるで本当に彼らの部屋に遊びに来ているかのようでとても興奮した。それでいて遠慮することなく部屋の中を隅から隅まで見ることができる。

東京都出身のカッコつけて写っているホスト風男性の部屋では懐かしのアースノーマットが買いだめされているのが見えたり、ウガンダ出身の2人組の男性の部屋は殺風景で何もないかのように見えてカーテンだけはちょっとアフリカ風の模様だったり・・・みんな異国から東京へやって来て東京のものでいっぱいになっていく部屋の中でどこか故郷を感じるものが置いてあったり、その人の趣味や趣向が本棚や置いてあるものから垣間見えたりするので見ていて飽きない。

思わず何度か戻って見入ってしまった。ずっといられるな、ここ。

そして『 Binran [2004-2007]』の展示。

蛍光色のネオン煌めくガラス張りの建物の中にセクシーな露出度高めのビンラン・ガールたちが目線を外し無表情でそこにいる。

なんなんだ、これは・・・

私が初めて台湾南部で見た不思議な光景がそこにあった。もちろん撮影上の演出もあるとは思うが、多くがこのように無の表情でガラスの箱の中に納まっていたのを思い出した。

美しく、儚く、そしてどこか哀愁が漂っているのはもしかしたらガラスの箱の中の生活感あふれる小汚い壁や彼女たちの身なりを整える道具、ハイヒールの下で踏みつけているミネラルウォーターの箱、だったりするのかもしれない。

その何とも言えない退屈そうな表情で客を待っている様子は道行く男性たちをそそるのだろうか。そして彼女たちもまた映画のような素敵な物語が始まるのを待っているようにも見える。

まだまだ見たりなくて思わずミュージアムショップでこの写真集買ってしまった。

他にもいろいろ見応えある展示だった。

最後に飾ってあった瀬戸正人さんの若かりしころのセルフポートレートも素敵だったのでアップしておきたい。

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